久留米市野中町の肝臓内科・血管内科・消化器内科・乳腺内科です。電話:0942-33-5006
昔からの診断名に脳卒中(脳溢血)があります。これは、脳梗塞・脳出血・「くも膜下出血」などの明確な診断ができないが、とにかく脳の病気で突然倒れる病気を総称した診断名です。
以前から、血管をしなやかにする研究をしてほしい・・などのご希望があります。でも血管内のゴミ(プラーク)が減らなければ、血管が広がる(伸びる)方法を考えても間に合いません。また、血管にプラークがあるまま脳血管が広がると頭痛や片頭痛の原因にもなりますし、脳細胞が圧迫されて認知症の原因にもなります。
でも、訳も判らずに脳出血・くも膜下出血が“襲ってくるかも”と心配して日々暮らすのも憂鬱なことです。 そこで、具体的に調べてみました。
以前から、脳出血などもプラークが原因だと確信していましたが、今までは症例が少なく解析できるデータがありませんでした。
でも、現在までに8カ所の血管エコー実施症例が5408例に達し、脳梗塞205例、くも膜下出血18例、脳出血12例の血管プラークと病歴データが収集できましたので、「実例に学び、そこから教訓として何かを読み解く」という意味で、そのデータの集計結果の表を作成しました。
(1)私が経験した30例の頭蓋内出血例(脳出血既往例12例、「くも膜下出血」またはその既往例18例)では、30例中の29例(96.7%)が動脈にプラークが堆積した事による血管の虚弱性が根本的な原因であると考えられます。・・そのプラークの原因は食習慣、間違った健康情報、アルコール多飲、喫煙などです。 遺伝の要素は極めて軽微ですので・・ご安心を。
(2)動脈プラークに関して・・・「くも膜下出血」の18例中16例(88.9%)は私の基準:脳梗塞・心筋梗塞リスクレベル3以上でした。リスクレベルは(血管エコー実例・研究をビジュアル解説 7)をご覧下さい。
(3)性別に関して・・「くも膜下出血」の18例中6例(33.3%)は男性であり、男性の発生頻度は低い。しかし、その男性の全例がリスクレベル=4でした。・・つまり、「くも膜下出血」が過去のことであることを考慮して、男性は、少なくともリスクレベル=3以上にならなければ、「くも膜下出血」にならない、といえるかもしれません。
(4)糖尿病に関して・・「くも膜下出血」は18例中1例のみ2型糖尿病が認められた。
(5)「甘い物」に関して・・男女共に、甘い物を好きな人が「くも膜下出血」になりやすい傾向にあるが、逆に甘い物を嫌いな人も要注意です。(全体の症例でのプラーク集計では、甘い物を好まない人も、好きな人も、普通の人に比べて有意にプラークが肥厚していました:甘いものは砂糖ではなく、果物・甘酒などから少しずつ毎日摂取すべきでしょう)
(6)「揚げ物」に関して・・「くも膜下出血」例の18例中13例(72.2%)が「揚げ物」を好んで摂取していた。
(7)アルコールに関して・・男性の「くも膜下出血」例の6例中3例(50%)はアルコール摂取過多でしたが、女性では12例中2例のみアルコール摂取過多でした。
(8)「肉」に関して・・「くも膜下出血」例の18例中13例(72.2%)が「肉」を好んで摂取していた。
(9)「野菜」に関して・・「くも膜下出血」例の18例中13例(72.2%)が「野菜」を好んで摂取していた。つまり、野菜を食べるだけでは「くも膜下出血」は予防できないのです。RAP食でプラークを減らす治療が必要です。
(10)「喫煙」に関して・・・男性の場合は・・「くも膜下出血」例の6例中の5例は全てヘビースモーカーで、6例中の3例は酒類の多飲歴+でした。 女性では「くも膜下出血」と喫煙の関係はなさそうです。
(11)LDLに関して・・くも膜下出血(既往)例の18例中16例(88.9%)は、なんとLDLは正常値の140未満であった。LDLが低い(薬で下げる)と、くも膜下出血の危険性を念頭に置く必要がある。
なお、女性の「くも膜下出血」の12例中、6例(50%)がLDL≦100と低値であった。
さらにその6例中4例は甘い物大好き症例である。
現状の健診では「くも膜下出血」のリスクを判定するのは極めて困難。・・しかし、8カ所の血管エコーのリスクレベル診断は「くも膜下出血」の予知に極めて有意義です。
くも膜下出血を来す脳動脈瘤の多くは嚢状動脈瘤とされ、病理及び血管造影所見では、好発部位は血管分岐部に近接した部位とされている。
同様に、腹部大動脈での分岐部直前や分岐部に近接した腸骨動脈も動脈瘤の好発部位である。
特に大動脈の分岐部はプラークが激しく堆積し、しばしば腹部大動脈狭窄および動脈瘤、腸骨動脈狭窄および動脈瘤を来す部位である。また、腹部大動脈の分岐部は流体による物理的ストレスがかかり血管内皮細胞の障害を来し易く、そのために化学的な刺激(高血糖、高濃度のアルコール)で炎症を来しやすいと考えられ、プラークが石灰化する場合が多い。
このような分岐部では、プラーク肥厚による血管径が狭小化し、その直後の末梢血管において流体の乱流が増大し、血管壁には想定外の圧が内側からかかると考えられる。
脳動脈の血流に想定外の狭窄が生じる可能性は、ほとんどが脳動脈のプラークの形成によると考えるのが自然である。実際、脳動脈にプラークが堆積することで、脳梗塞症例は増加中である。
これらの事実から、「くも膜下出血」の原因である嚢状動脈瘤破裂へのメカニズム(仮説)を考えると・・
というのが私のプラーク観察から得られた動脈瘤破裂へのメカニズム(仮説)です。これが正しければ、脳動脈瘤は予防できるし、ある程度は治る可能性があります。
解説文を読むのがめんどうな人は・・・実例の表を・・・じっとご覧下さい。解説不要かも。
(1)性別に関して・・・脳出血例は、91.7%が男性であった。
(2)LDLに関して・・・男性で、スタチン剤(コレステロール低下薬)を服用していなかった9例中8例はLDLが120以下と低値であった。ちなみに、脳出血後も2名がスタチン剤の投与を受けていたが、脳卒中治療ガイドラインでは脳出血後のスタチン剤投与は慎重であるべきとされている。
(3)動脈プラークに関して・・・12例全例が、当院基準のリスクレベル2以上であった。
(4)糖尿病に関して・・・2型糖尿病との関連は認められない。
(5)酒類に関して・・・12例中8例(66.7%)が、過去の飲酒歴で酒類多飲であた。
(6) その他に関して・・・酒類多飲ではない脳出血症例の4例中、男性の3例では甘い物、揚げ物、肉の内2項目以上を好む食習慣であった。
(7) 野菜に関して・・・野菜を多く摂取しても脳出血の予防効果は期待できない。
(8) 実例を教訓として・・・表の実例にあるように、30〜40代で血圧が150〜160以上なら・・とりあえず降圧剤の開始が必要です。頭痛を伴うなら服薬開始を強く勧めます。
備考:頸動脈にプラークが1.00mm以下でも、他の血管にプラーク++である場合も多いで、注意が必要ですが、頸動脈プラークが1.71mm以上なら、無条件でリスクレベル=2以上となりますので、EPA製剤(or EPA+DHA製剤)が必要です。(動脈硬化の未来塾 31)
動脈瘤は基本的には小さくなりません。なぜなら正常血圧でもかなりの水圧が動脈瘤を常に内側から押し広げようとしているからです。
でも・・・
動脈が膨らんで障害を来すこのメカニズムは、眼科の病気で、不治の病とされる「網膜静脈閉塞症」の発症メカニズム(動脈硬化の未来塾 66)と同じです。 ですから・・プラークが減るとその部の管の、血液が流れる径が大きくなり、壁面にかかる水圧は低下し、乱流も弱くなり、乱流圧も低下します。
多くの脳動脈瘤は脳動脈の二叉に発生し、症例では動脈瘤に近接して血管壁の肥厚が観察されています(三重大学脳神経外科 DFAによる研究)。時にはそのプラークは石灰化していますが、石灰化したプラークも減少することを、当院では既に実証済みです(動脈硬化の未来塾 38)。
したがって、プラークが減少すると、動脈瘤も小さくなる可能性が考えられます。プラークを治す努力:RAP食(血管エコー実例・研究をビジュアル解説 29)を今からでも始めましょう。
数ミリの「脳動脈瘤」抱えて・・・経過観察だけの脳MRIで悔しくないですか? 脳動脈瘤手術を強く先生がお勧めなら、手術すべきでしょうが、それまでの期間だけでも、やれるだけのことをやってみませんか?
2017年5月18日 記載