脳梗塞・心筋梗塞の予防法

RAP食とEPA製剤によって、頸動脈狭窄症85%が6ヶ月で26%までに改善した1例

頸動脈エコー健診の普及に伴い、プラークによる頸動脈狭窄を発見される機会も増えています。(頸動脈プラークとは?→具体的な説明は(動脈硬化の未来塾 31))

ただし、現状では状況にもよりますが狭窄率が50〜70%以上の場合は観血的な頸動脈内膜剥離術(手術)やステント留置術が行われています。狭窄が高度になるまでは、抗血小板剤を使いながら、血中のLDLをスタチン剤で下げ、各種画像診断で経過観察を行い、高度狭窄に至るかどうかを見守り、上記の治療のタイミングを見極めることが一般的な医療です。

頸動脈エコーで頸動脈が中等度から高度狭窄の指摘を受けている皆さんへの朗報です。

今までRAP食に半ば批判的な印象をお持ちであったとしても、動脈硬化(プラーク)を治せる食事療法(動脈硬化の未来塾 84)))は他に存在しません。プラークを治せる薬も存在しません。まずは担当医に半年の猶予を頂いて、スタチン剤を服用しないRAP食を実行されてはいかがでしょう。

<症例報告>
「この研究に関して、著者が開示すべき利益相反関係にある企業などはありません」

46歳女性

<現病歴>

  • 2015年5月 頃から、糖質制限を4ヶ月だけ、したりしなかったり。
  • 2017年3月下旬 TC=220 LDL=142 TG=51 HDL=62 L/H=2.29
              頸動脈エコー:左頸動脈軽度狭窄+
  • 2017年5月中旬頃 左眼のみ“ぼやける”(左眼が見えづらい)眼科受診:異常なし
        寝たら左の耳鳴り+で翌日は改善。     耳鼻科受診:異常なし
        勉強中に単語が書けない、言葉が出てこない。脳外科:脳MRI=異常なし
  • 2017年6月初旬 MRAにて頸動脈の高度狭窄+認め
    関東の某大学病院に検査入院  血管造影にて左内頸動脈の高度狭窄85%
    クレストール(5)1,1x+バイアスピリン(100)1,1x+プラビックス(75)1x開始
  • 2017年6月下旬 同施設の頸動脈エコー検査でも左内頸動脈の高度狭窄85%を確認
  • 2017年7月中旬 本人希望でエパデールS(900)2,2x 追加で服用開始
             この頃からRAP食開始
  • 2017年8月中旬  LDL=49  TG=51 HDL=41
    この時、担当医にクレストール(スタチン剤)を中止したいと相談し、
            了解が得られて中止。
  • 2017年9月初旬 当院初診

(以下の写真は2018年11月 追加)


<当院受診以降の経過>

  • 2017年9月初旬 当院初診
    左頸動脈狭窄は49%に改善中(プラークの厚さ:IMT=2.20mm)(上図)
  • 2017年12月中旬 (再診)
    左頸動脈狭窄は26%に改善(プラークの厚さ:IMT=1.22mm)(上図)
  • 2017年12月中旬 当院受診の3日後、地元でMRA=左頸動脈狭窄がほとんど解消。
    担当医に「プラビックス(75)1TとエパデールS(900)2,2xを中止しましょう」と言われたが、エパデールS(900)2,2xは希望で続行。
  • 2018年7月初旬  MRA再検。やはり狭窄は特に認められず、
    「バイアスピリン(100)1,1xもエパデールS(900)2,2xも不要と説明を受けた」が、希望してエパデールS(900)2,2xだけは服用中。

担当医曰く「こんなに急に良くなるのは極まれにある・・・、ラッキーでしたね〜」との説明があっただけで、極めてまれな急速改善例にもかかわらず、その理由についての興味は示されなかった。また、6カ月間の生活習慣・食習慣に関するお尋ねもなかった。

<結果>

  1. ステント留置術を強く勧められていた46歳 女性の頸動脈高度狭窄(85%)病変が、わずか6ヶ月のEPA製剤とRAP食による治療によって、狭窄率が26%まで改善し、ステント治療の適応が消失した。
  2. 頸動脈狭窄が著明に改善した後は、耳鳴り、眼症状、発語障害などの症状の発現はみられていない。

<考察>

  1. 急速な頸動脈プラーク堆積に関して、調理パン、ロールパン、揚げパンなどを、この20年間、毎日5〜6個食べていたことが主な原因と思われた
  2. 2017年5月の 左眼のぼやける症状、左耳鳴り、言葉が出てこない、などの症状は“神経・血管圧迫症候群”としての一症状や一過性の脳虚血症状であった可能性は否定できない。
    上図のごとく、頸動脈プラークが堆積するとその場所の動脈は拡張し、プラークが退縮すると血管径が元に戻る(小さくなる)。このように、脳血管のある場所で、プラークが肥厚すると、血管の拡張や蛇行によって“神経・血管圧迫症候群”が発現すると考えられる。
    既に掲載した舌咽神経痛の症例も“神経・血管圧迫症候群”に分類可能です。(動脈硬化の未来塾 81))
  3. 本例の急速なプラーク退縮の要因として
    a)調理パン、菓子パンを突然に控えた。
    b)スタチン剤を中止できたこと、つまりマクロファージの活動抑制剤を服用しなかったこと。
    c)マウスでは確認されているが、EPAは(DHAも)プラーク堆積に抑制的に作用する。
    d)年齢が若く、マクロファージが元気であること。
    e)RAP食を信じ続けたこと。
    などが考えられる。
  4. RAP食によって、2〜2.5ヶ月で、プラークが0.35〜0.51mm退縮した症例を掲載していますが(動脈硬化の未来塾 83)) ((動脈硬化の未来塾 80)) 最短のプラーク改善例としては、50歳の女性の方でしたが、右鎖骨下動脈のプラーク4.62mmが4カ月間で1.94mmまで(-2.68mm)に退縮した症例を経験しています。

    本例も85%狭窄時点の2017年6月では、プラークは4.2mm程度であっただろうと推測されますが、その際のIMTに関しては未記載であった。
  5. 参考までに初診時のその他の血管エコー所見は
    右頸動脈分岐部max-IMT=0.42 mm
    腹部大動脈max-IMT=0.50 mm  右鎖骨下動脈max-IMT=0.92 mm
    右大腿動脈max-IMT=0.51 mm  左大腿動脈max-IMT=0.41 mm
    右総頸動脈max-IMT=0.61 mm  左総頸動脈max-IMT=0.56 mm 完璧な血管でした。
  6. 頸動脈狭窄症の外科的治療の問題点として、ステント留置術でも重症の脳梗塞が約2%に、軽症でも約2%に生じるとされており、これらの発症率は外科手術(頸動脈内膜剥離術)でもほぼ同じと言われています。(国立循環器病研究センターのサイトより抜粋)

また、頸動脈内膜剥離術の合併症として、昭和大学の1997年〜2016年6月までの760件の手術で、2名の手術死亡(0.19%)(術後過還流:急に脳血流が増えて→脳出血1例、嚥下困難による肺炎1例)、手術による症候性脳梗塞7名(0.92%)と報告されています。
ステント留置術の合併症として、「Lancet Neurol 2010;9:33-362」では、小さな無症状の脳梗塞も含めて、50%と報告されていますが、昭和大学では約10%程度に抑えられている。(以上、昭和大学病院のサイトから抜粋)

合併症の%は低いけれども、受ける立場からすると、頸動脈狭窄症の標準的な治療は命がけ、半身不随を覚悟の治療であることがお判りかと思います。しかも、運良く合併症もなく治療が行えても、脳や心臓の血管を治療したわけではありませんので、心筋梗塞、脳梗塞のリスクは普通に残ることになります。

頸動脈狭窄症の治療に関するその他の参考資料、データをご覧下さい。(動脈硬化の未来塾 35)) ((動脈硬化の未来塾 84))


<まとめ>

健診などで頸動脈狭窄症(中等度〜高度)を指摘されたら、ステント治療や手術を半年間くらい延期していただき、スタチン剤を服用しないRAP食(動脈硬化の未来塾 52)) ((動脈硬化の未来塾 68) ((動脈硬化の未来塾 82)) (動脈硬化の未来塾 77)) ((動脈硬化の未来塾 75))をお試し下さい。

今回の退縮スピードは決して単にラッキーではなく、必然の結果として想定範囲内の現象だと考えられます。RAP食に目が止まり、信じて行動したことはラッキーといえるかもしれません。

全例がこのような最善の経過を辿るわけではありませんが、現在の最新RAP食ではプラーク退縮は、その退縮スピードに個人差はあっても、ほとんどの場合で期待できます。 (動脈硬化の未来塾 69))
今まで、健康に関する様々な食事療法がありますが、系統的にプラークを改善させた実績(信頼できるレベルの超音波画像付きで)のある食事療法は、著者が調べた範囲ではありません。

<付録:関連症例>

最近の実例ですが、77歳の女性の方で、遠方の某大学病院、脳神経外科に通院中の方です

  1. 2013年3月上旬   左頸動脈分岐部 50%狭窄
  2. 2017年10月頃から 閃輝暗点 出現
  3. 2018年1月中旬 右頸動脈分岐部 70%狭窄  左頸動脈分岐部 60%狭窄
     (大学病院の診察で「80%狭窄になればステント留置治療を強く勧めます」・・と。)   バイアスピリン(100)1,1x+スタチン剤(2.5)1T+ロトリガ(2g)1P,1x+中
  4. 2018年2月中旬 LDL=123  TG=55  HDL=81
  5. 2018年3月中旬 私の意見を信じて・・・スタチン剤(2.5)1T-中止
       (担当医に、責任は自分で受け止めるので・・と強くお願いして了解を得られた)
                         プラーク改善を信じRAP食開始
  6. 2018年5月初旬 LDL=161  TG=** HDL=64
  7. 2018年8月上旬 右頸動脈分岐部 55.4%狭窄  左頸動脈分岐部 53.7 %狭窄
         プラーク改善・狭窄率改善 LDL=151  「不安な気持ちで一杯でしたが、本当に改善していたので飛び上がるほど嬉しかったです。担当医も喜ばれたご様子で・・」との報告を8月18日に頂きました。


2018年8月21日 記載
真島消化器クリニック

2018年11月26日MRA写真を追加掲載


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